痴呆性高齢者の理解とケア

 〜 (社)呆け老人をかかえる家族の会から 〜
   
(社)呆け老人をかかえる家族の会岡山県支部 妻井令三 
                         
1、私たちの生きている時代は・・・
(1) 一世紀で倍になった平均寿命(日本は世界の最長寿国)・・・・・人類史の中での革命的出来事(医療・保健・福祉の貢献と国民の食事・健康意識の改善など)"その光りと影"
(2) 家族や地域を巡る生活環境の構造的変化
・ 村落共同体の解体・・・・・第1次産業主体の産業構造→第2次・第3次産業への転換
・ 大家族主義の解体と村から都市への人口流動 → 核家族化へシフト
・ 晩婚化や親族関係や家族関係の希薄化現象・・・・家族介護力の低下
・ ライフサイクルの変化→子育て後の長くなった人生→"孤立化"する老人たち
・ 伝統・伝承・生活の知恵の継承の断絶
(3) グローバル化の中でフロートする人生
・ "居場所作り"の問われる時代 → 社会システム再構築が迫られている
・ 青年・壮年をどう生きるか → 老年をどう生きるか
・ 自立生活困難となった老人・障害者をどう支えるかの課題

2、加齢に伴う衰弱と痴呆症罹患の増加
・ 老いとは
・ 65才以上の7%強、(80才を過ぎると4〜5人に一人は痴呆に罹ると言われる)
・ 脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆で8割を占める(その他で2割)

3、痴呆(ぼけ)とは・
"一度獲得した脳の知的機能の低下により自立した生活が困難な状態"←脳の障害
患者の立場から言えば・・・・"自分の状態や考えを整理して説明する事が出来ない病気"
  <特徴的な症状>
@ 物忘れ・・・・・記憶障害(記銘力の低下・全体記憶の障害・記憶逆行性)
A 失語・失効・失任・実行機能の障害
B 意識は終末期以外はしっかりしている・・・理性の世界から感情の世界へ・・・人間としてのプライドは残り、感  性はむしろ鋭くなる・・・・心は傷つきやすい
C 自分に不利なことは認めない・・・・・・言い訳・弁明は天才的になる(自己保全の本能)
D まだらぼけ(正常な部分とボケが入り混じる)
E ぼけの症状は身近な人にひどく出る・・・・他人には良い格好をする
F 物事にこだわる
  <よく現れる状態>
    「物忘れ」「慣れた仕事が出来なくなる」「さびしがる」「無気力になる」「道に迷う」
    「時間的・空間的感覚がおかしくなる」などが特徴的
   そのため
   「無くなった、取られた」「まだ食べていない」「家に帰らせてもらいます」いった言葉や、同じ言葉の繰り返    し、さらには"排便""失禁(お漏らし)""夜中にゴソゴソ動き出し"などがよく現れる。また、"妄想"が起こった   り、極端な場合は"異食""弄便(便をもてあそぶ)"などの不潔行為や人格変化が起こり暴力行為が出るこ   ともある。
 
4、"痴呆症介護"をめぐる状況(人には言えない苦労、判ってもらいにくい苦労)
・ 社会的偏見
・ 介護者自身の偏見・・・ "身内の痴呆を認めたくない"気持ちも含めて
・ 焙り出される介護者の義務感と本音の絶え間ない葛藤・・・「一人で悩むな・・」
・ 肉体的苦痛と精神的ストレス・・・四六時中目が放せず、延々と続く介護生活→希望が持てない病
・ 介護者の53.4%が"要医療"・・・「介護者が倒れる」→ 介護者ケアの課題
・ 痴呆症介護をめぐる3つの修羅・・・「要介護者との修羅」「他者(つれあい・兄弟・親戚・世間)との修羅」「介  護者自身の心の中での修羅」
・ 経済的圧迫・・・・・介護費用など直接負担、介護のための退職、住居移転etc
・ 依然多い「女性への負担率」と「老〃介護」の増加。
・ 増加する独居老人問題

5、痴呆症の人をどう見るかの視点
・ 記憶の中に残っている世界と時代に生きている人
・ 学習で得た生きるうえでの判断する座標軸を喪失した人
・ 感性は逆に鋭くなり、頼るべき人を探し彷徨う人(人間をやめた人ではない)

6、高齢者介護の社会化必然の時代(日本)
@ 地域福祉権利擁護事業(1999年)
A 介護保険制度の施行(2000年)
B 成年後見制度(2000年)
C 社会福祉法改定(2001年)などの法整備
  <政策展開における基本の思潮>
   ○基本理念    個人の尊厳の保持  自立支援  福祉の権利性  利用者選択
   ○制度の基本構造 措置 → 契約   質の良いサービスの充実   民活の導入
            地方分権と地域福祉の増進  受益者負担の原則
 ※それらの問題点と課題について(財源論優先の制度設計、高齢者に複雑すぎる制度仕様、民活固有の問   題と公的責任の後退傾向、貧弱なケア体制、経済的負担増の問題etc)

7、痴呆症の人の世界と願い
・「人間は"自分探し"を続けるとともに、"人探し"をする旅人」
・ 自分自身を支える判断の座標軸が失われた世界  ・"心の旅路をさまよう人"
・ 自分を理解し、支えてくれる人が必要になった人
   ☆アルツハイマー病患者からの10のお願い
@、 私のことを我慢してください 
A、 私に話しかけてください
B、 私に親切にしてください
C、 私の感情を考えてださい
D、 人間としての尊厳と尊敬をもって扱ってください
E、 私の過去を思い出してください
F、 今の私を知ってください
G、 私の将来を思ってください
H、 私のために祈ってください
I、 私を愛してください
   (※アメリカ・カリフォルニア州クリスチャン・ヘリテージ・ガーデンのパンフレットより。)

8、ケアについて
○ 早期発見・初期診断の重要性
・ 早期発見の難しさ・・・痴呆症への理解を進める啓蒙が重要(まず家族が隠さない・)。身近な介護者に痴呆  症状が激しく出る原則がある。
 "初期痴呆に人は名(迷)演技者に変身?"・・・・他人には良い格好をする。
 おかしいと思ったら「何処から来たのか」「今日の月日」などを聞いてみる。
・ 徘徊SOSネットワーク・・・・(家族の警察への事前届け出・徘徊ネームの着用ほか)
・ 理屈で説得しても了解しない。
・ 初期の段階で痴呆症専門医に診断を受け、症状に対応するケアにつなぐ事が大切。
・ 独居老人は社会的支援システムへきちんと繋ぐ重要性。(市・介護支援センター他)
○ ケアの原則
・ バイタルサイン(体温・脈拍・呼吸・血圧・・・生命の兆候)と全身状態をよく見る
・ 生存ケア(食事・排泄・入浴+清拭・睡眠)+ 心のケア(情緒的・共感・共生)
○ 痴呆症は生理的には加齢に伴っておこる脳の神経細胞の障害であるが、現象的には
  "人間関係障害""コミュニケーション障害"となって現れる。それに応えるケアとは・・・
○ 在宅ケアと施設ケア
・ 生活者としての継続性の尊重を・・・
・ "見守り"の重要性
・ 痴呆の人とどうコミュニケーションがとれるか・・・バリデーション e
・ 介護者へのケアの必要性(家族ケア、介護職職員への研修及びケア・・・)

9.スウェーデンに見る痴呆症介護
・ "生活者安全保障"のコンセンサス(政治・行政・国民意識)
・ 個の自立を基礎にした(人はそれぞれ違ってよい) → 民主主義(対等な論議)
・ 人間の尊重(尊厳)・・ "呆けの人も心は残っており、それぞれの人生をもった人"
・ 痴呆症に対する理解・教育の徹底
・ 福祉政策の基本に住宅政策
・ 徹底した地方分権と公的サービスを中心としたサービス
・ 先進的ケアを、モデルの無い中を自力で開拓した国・・・・グループホームほか
・ "生活大国"スウェーデン・・・・・・21世紀モデルの探求を続ける国

10、"人間性復活が問われる21世紀"
  <痴呆症をめぐる状況>
@、 医療のチャレンジ
A、 ケアをめぐる変革
B、 制度システムの激変期

  <痴呆症から人間のあり方を探って・・・>
@、 人生のステージの見直しの時代
A、 真のノーマライジェイションを目指して・・・
B、 自然との共生の時代へ
C、 新時代を切り開く若者への期待
                                          以上

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