菜園日記より

                                 吉岡 猛(RSK OB)
         私は休耕田を借りて野菜作りをしています。三月半ば、大家さんのお婆さんが
       可愛がっている猫が近所のドラ猫にいじめられ、追いかけられた挙句逃げ場を
       失って裏の竹薮の木に攀じ登りその場は難を逃れたものの降りることが
       出来なくなり、地上7・8メートルもある木の枝で三日三晩ニャアニャアと鳴くだけで
       どうすることも出来ませんでした。
       お婆さんは猫がお腹を空かし木から落ちて死ぬのではないかと心配で
       夜も眠れませんでした。
       家族や近所の人達にも助けを求めて相談しました。「消防車でも呼んで助けて
       もらうしかこんな高いところに人が登れるもんか」「長い竹竿でたたいて落とす
       のが早道」等、木の上の猫を見上げて言いました。
       何にも代え難い大切な猫、お婆さんの納得できる方法が見付かりません。
       4日目の朝、私がじゃが芋の様子を見ていると、お婆さんが急ぎ足でやって
       来て事件発生からの様子を詳しく話し、あんたの姿を待っとったと言われるので
       急いで竹薮の木の下へ行きました。
       猫は大声で鳴いて助けを求めています。
       自分も子供の頃なら登れたのに今は無理、では・・とあたりを見渡すと
       猫の枝まで届く長さの竹は沢山生えている。
       これを切って猫のいる枝にロープを懸けバケツに猫の好物を入れて吊り上げ
       バケツの中に入ったところをすばやく引き下ろすと言う作戦を考えつきました。
       早速お婆さんに説明し家に帰って準備をはじめました。
       家にある猫の食器にご飯と魚の残りを入れ、バケツやロープ、竹を切る鋸・鎌等を
       準備して再び竹薮の木の下へ。
       まず竹を切ろうと手頃な竹を探している時でした。
       下を見ていた猫は突然枝の中程から幹のほうへ移動をはじめたのです。
       そしてあれよあれよ見る間に幹を下り始めたのです、上手に爪をたてて慎重に
       時間をかけてゆっくりと下りて最後はポンと地面に飛び降りました。
       私が手を差し出すとすんなり抱かれてあまえるしぐさをします。
       それを見ていたお婆さん、涙を流しながら「どうしたことじゃろう、不思議なことが
       あるもんじゃ」「あんたは神さんじゃ」・・・    (岡山支部情報紙 第49号掲載分)