山水画のふるさと中国黄山に登る

(2001・5・18〜22)    吉岡 猛(RSKOB)
 
私は長い間、この山に自分の足で登り峰々を巡って見たいと考えていました。
しかし、中国と言うお国柄と山上での宿泊施設のこと、特に扉のないトイレのことなどが頭に浮かび躊躇しておりました。ところが3月リビング新聞でツアーの募集記事を見かけ問い合わせしたところ問題ないことが分かり、5月18日から5日間家内と共に山旅に行きましたのでご紹介します。

 @ 黄山の素晴らしさ
 私が初めて中国旅行をしたのは1988年、その時買い求めた「地球の歩き方」には黄山の素晴らしさが次のように書いてあります。
古来、この山の素晴らしさは大詩人李白、杜甫などによって称えられ、また明代の著名な地理学者であり、旅行者であった徐霞客は、30年かけて中国の山河を遊歴した後、黄山についてこう言っている「五岳(泰山、衡山、恒山、嵩山、崋山)より帰った者はその素晴らしさに、普通の山など目に入らない。
 しかし、黄山より帰ったものは、その五岳でさえも目に入らない。」
 黄山は何故このように人々の賞賛を集めているのだろうか?それはこの黄山が、奇松、奇岩、雲海、温泉と言う「四絶(四奇)」をもっているからだ。実際、黄山に行ってその岩や松の形の面白さを口にしない人はいないだろう。これらは、あるものは人の形に、あるものは動物に、そしてまたあるものは物の形に見える。そして、それに自然の道化師である雲が加わる」と。

A 位置と大きさ
 安徽省の南部に位置し、面積は154ku、周囲120kmにおよぶ。日本の大雪山と同様に、ただひとつの頂上を持った大きな山ではなく、その中に72の峰を持っている。その峰の中で一番高い峰は蓮花峰1864mで、1500m以上のものは30以上ある。登山道はほとんどが石の階段で、峰と峰の間を縫うようにきちんと整備され、長い年月に及ぶ歴史の積み重ねを感じます。
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 B 旅の記録
 (5月18日)岡山空港から上海国際空港へ。上海国際空港は、新しく浦東地区に新設され、従来の虹橋空港は国内線に変わっておりました。その虹橋空港から黄山への時間待ちが長く、外灘を見学し、中国式喫茶店茶館でお茶を飲んで時間待ちをしました。夕食後専用バスで空港へ着くと、今夜のホテルが変更になり、市内の予定が黄山の麓の町までバスで1時間半余分に移動する事に成ったと告げられる。その上に飛行機の出発は約1時間遅れ、初日から就寝は現地時間の12時、日本時間では1時を過ぎることになった。
 黄山空港からはバス、暗闇の中に点々と灯りの見える田舎道を1時間半走ってホテル(桃源賓館)に到着。
 明日、江沢民国家主席が黄山登山をされるので警備上の理由で本日予定のホテルが変更になった事、明朝ホテル前の道が7時半から2時間通行止めになる事、したがって明日ホテル出発9:30など、2日目の行動予定ミーティングの後解散、就寝。

 (2日目)早朝からホテル前は警備の車や警官なでざわめいていたが江沢民主席一行の車は一向に通過しない。ホテルの前の広場は泊り客が今か今かと登山出発を心待ちしながら賑やか。国籍は韓国、日本、台湾が大部分。
私も台湾の方と流暢な日本語で李登輝岡山訪問など話題にしながら出発を待つ。
 10:30過ぎ江沢民主席一行の車が通過し、予定1時間遅れでホテルを出発。
 11:00から早い昼食
 11:40ロープウエイ雲谷寺駅横の登山口門を通る。腰の歩数計をリセットし登山開始。ロープウエイを横目に谷筋に花崗岩の石段になった登山道、進むにつれて勾配が急になり汗を拭く、現地人で竹の天秤棒を担いだ男が近づいてきて、背中のリュックに手をかけ、千円・千円持ってやると言う。断って進む、また同じ事を言って別の男がやってくる。断っても断っても、とにかくひつこい、荷物担ぎを商売としている人達のようである。
 その他、この急な石段の登山道には山上のホテルの営業に必要な品物を天秤棒で担いで荷揚げする運び屋が一般の登山者に混じり、白布に包まれまだ水が滴っている豆腐や米、肉、ビール瓶を円筒状にし2段重ねで器用に天秤の両端に付けて運ぶ姿も、また大きなプロパンガスのボンベさえも、ぶらぶらと前後にゆすりながら荷揚げしている。

 直ぐ近くにロープウエイがあるのだが、安い人件費と、働く場として黄山は大切な一面を持つ山であることを知る。
 雲谷寺の登山口門からロープウエイの頂上駅までの標高差は約700m、ほぼ中間地点には、登小平前国家主席が登山した時ここで休憩したことを記した大きな看板が立ててあった。今回の江沢民主席の登山と言い、国家主席になったら一度は登る山なのかも知れないと想像する。
 中間点を過ぎたあたりでグループの中の最年長で70過ぎの男性が、疲れと準備不足から歩けなくなった。ここまで来る途中にも乗らないかとひつこく声をかけるかごやを大勢見て来たが、とうとうこの方がかごやの世話になることになった。あとでこの人から聞いた話では、最初かごやが日本円で3万円と言う、値引きして2万2千円で交渉成立、ところが上に着くまでの休憩のたびにチップ・チップとせがまれ、とうとう2万5千円払ったと話しておられた。
 ここでは日本人はお金に見えるようである。それにしても山水画の世界を夢見てここまで来たが現実を目の前にして複雑な気持ちになってきた。
 ロープウエイの頂上駅を過ぎると上りの急な勾配の階段道は終わりになる。
 緩いアップダウンの道を20分位で始信峰へ。この峰の名前の由来は、この黄山が素晴らしい山として初めて信じられ、世の中に認められた峰という意味だそうです。ここへ来て見て山水画そのものの実在を知る。
 4:15ホテル(黄山西海飯店)着。休憩のあと排雲亭に夕日を見に行くが雲が厚くて夕日は見られなかった。1日目の万歩計25,312歩。

 
(3日目)早朝、黄山でのご来光を拝みに行く。4:00モーニングコール。
 ホテル備え付けの厚い防寒衣を着て懐中電灯を準備し、4:40ホテルを出発して清涼台へ。5:11分のご来光を見るために見当も付かない位の大勢の人が集まっている。東向きの岩場は場所探しに苦労する、カメラアングルなど考える余地はない。ご来光を拝むのは日本人だけではないのだ。
 スズメのお宿さながらの光景、賑やかに中国語やハングルでしゃべっている。カメラを構えて待つ。山と空との境目に雲が厚く時間が過ぎてもご来光は見えない、あきらめて岩から降りたとき、野球場でホームランを打ったときのような、ワーと言う大きな歓声がこの黄山の峰々から聞こえてきた。
 

太陽が顔を出した。また急いでもとの岩場へよじ登って写真を撮る。
 ホテルに帰って朝食後、7:30ホテルを出発して黄山の奇岩の代表、
飛来石へこの辺りはかなりきつい登り道、雲ひとつない素晴らしい天気に何度も休みながら汗を拭く。黄山で2番目に高い山、1841mの光明頂からは南に1番高い蓮花峰と3番目に高い天都峰がよく見える。ここの売店で紙パック入りのヨーグルトを飲む10元。渇いたのどに特別美味。
 蓮花峰(1864m)は急な鎖場と時間が掛かるので、体力に自信のない人は登らないようにと現地ガイドより注意。我々2人は気力体力充分、黄山の主峰に登るのみ。頂上は狭くて石と石との間に数人が立てるだけの広さに大勢の人で大混雑、写真もとることが出来ずに降りることになった。昼食は玉塀楼。
 ここには黄山での松の代表、樹齢800年の
迎客松が黄山を訪れる人々を向かえて呉れる。我々はこの松に見送られてひたすら硬い石の階段を下山する。
 

  出発点のホテル桃源賓館に帰り着いたのは2:40。 2日間、全山石の階段の上り下りで、足が疲れて痛い。2日間の万歩計 55,212歩。